Lesson4-1 焙煎

焙煎とは

私たちがコーヒーと聞いてイメージするあの香ばしい風味や、ほろ苦くて酸味のある味わいは、
全て焙煎することで初めて生まれます。

まさに焙煎とは、コーヒーがコーヒーになる瞬間だと言えます。
コーヒーの歴史上で、コーヒーを発見した人の次に偉大なのは、焙煎することを思いついた人かもしれません。

Lesson4ではコーヒーを選ぶ上でも楽しむ上でも、また極める上でも欠かせない「焙煎」について学習していきます。

mavo/Shutterstock.com
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焙煎によるコーヒー豆の変化

焙煎とは具体的に言うと、コーヒーの生豆を乾煎りすることで、香味を引き出す工程です。
煎りが浅いと酸味が強く引き出され、深く煎ると酸味は後ろに下がり、今度は苦味とコクが強く出てきます。

豆によって異なる焙煎での変化や焙煎度合い

この焙煎によって引き出される酸味と苦味の度合いや質は、全ての豆に均一ではありません。

標高の高い産地で採れたコーヒー豆などは豊かな酸味があるので、深めに煎っても酸味が残りやすくなります。
逆にボディのしっかりした豆は深く煎らなくてもコクがあります。
また、生豆は産地や品種によって硬い豆、柔らかい豆、水分の多い豆、少ない豆、
大粒で肉厚な豆、小粒で細い豆など、様々な状態があり、それぞれ適切な焙煎度合いがあります。

プロの焙煎業者や自家焙煎のコーヒー専門店は、これら生豆の特徴を考慮に入れ、
最適な焙煎度合いでコーヒー豆を提供していくことが重要な役割です。

焙煎度の段階

焙煎度にはまず「浅煎り」「中煎り」「深煎り」の3段階があり、これらをさらに細かく段階分けした名称があります。
日本ではアメリカ式の8段階分類法が最も一般的です。

それぞれの焙煎度には明確な境目があるわけではありませんが、
だいたい以下のような色合いと特徴で決められています。

http://en.wikipedia.org/wiki/Coffee_roastingを元に作成
http://en.wikipedia.org/wiki/Coffee_roastingより作成

■ライト

この段階ではまだ酸味ばかりで苦味はまったく感じられず、香りも出ていません。
普通の飲用には適さず、豆の特徴をみるための試飲などに使われます。

■シナモン

良質の酸味を持つ豆などの飲用として使われますが、まだ酸味が強すぎるので、
あまり一般的には飲まれません。

■ミディアム

このあたりからコーヒーらしい香りとなります。
アメリカンなどに使われることが多い焙煎度です。中煎りとする見方もあります。

■ハイ

酸味と苦味のバランスが最も良く、スタンダードな焙煎度のひとつです。

■シティ

こちらもスタンダードな焙煎度のひとつ。
このあたりから苦味が上に立ってきます。

■フルシティ

ここからが深煎りの領域に入ります。
豆の表面に油脂が浮いてくるようになり、この焙煎度からアイスコーヒーやエスプレッソに使われるようになります。

■フレンチ

酸味はほとんど感じられなくなります。
牛乳と混ぜてもコーヒーの苦味やコクがしっかり主張されるので、
ここからカフェオレなどのアレンジコーヒーに使われるようになります。

■イタリアン

酸味はまったくなくなり、苦味とコクのみになります。

※アメリカでは一部フレンチローストとイタリアンローストの順番が逆のことがあります。
※シティローストとフルシティローストを「中深煎り」とする見方もあります。

焙煎による化学変化

コーヒー豆の焙煎は190〜250度の高温でおこなわれます。
これは他の煎る食品と比べてもかなり高温の部類に入りますが、
これだけの温度で加熱されることによって、コーヒー豆には実に複雑な化学変化が起こることになります。

酸味の変化

コーヒーの酸味をもたらす成分は、煎りはじめてから初期の段階で増加していきます。
しかしシナモンローストからミディアムローストの段階へ移行するあたりを境目に、
今度は酸の熱分解がはじまり、酸が減少していくのです。

深煎りのコーヒーに酸味があまり感じられないのはそのためです。

苦味の変化

苦味成分に関してはさらに複雑です。
コーヒーらしい苦味成分の主要なものでクロロゲン酸ラクトン類がありますが、
これは焙煎が進むと中煎りから深煎りに移行するあたりでピークをむかえ、
その後、入れ替わるように苦味成分であるビニルカテコールオリゴマーが生成されます。

中煎りと深煎りで苦味の質が違うのはこういった化学変化のバトンタッチがおこなわれるからなのです。

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