Lesson12-2 カッピングの実践

カッピングを活用しよう!

品質管理や国際品評会のためのカッピングは私達に馴染みないものですが、
コーヒーの美味しさや風味に注目して比較する、という点に注目したカッピングは
趣味としても楽しめ、スキルが身につきます。
豆選びやブレンド、お客様にお勧めできるなど、コーヒーを仕事にしたいという夢にも繋がります。

品評会や協会基準では様々な細かい規定がありますが、個人で楽しむためや
コーヒー専門店で活用するためのカッピングは、
そのような厳格な規定はさほど気する必要はありません。

基本を修得して、大切なポイントを押さえたら、後は重視するポイントだけに絞ったり、
不要なものを省くなどアレンジも可能となります。

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カッピング修得のメリット

①好みの豆に出会える確立が高まる

カッピングにより、コーヒーの特徴や要素を分解して理解できるようになるので、
自分の好みを明確に把握しやすくなります。
把握した好みの要素に合わせて豆選びができれば、
今まで思いがけなかった好みの豆とも出会えるようになります。

②コーヒー専門店開業など、仕事としてコーヒーと関わる際にも豆をしっかりと選べる

スペシャルティコーヒーの台頭により、コーヒーに対する表現が多様化しているため、
プロとして仕事で豆を扱う際には、その表現を理解している必要があります。
自分でカッピングを行っていれば、微妙な表現の意図しているもの、
フレーバーの違いなども理解しやすく、豆選びに自信が持てるようになります。

③カッピング講座など、新しい切り口でコーヒーの素晴らしさを発信できる

サードウェーブコーヒーの流行により、コーヒーの「苦味」だけではない魅力が注目を集めています。それと共に人気が高まっているのが「カッピング講座」です。
コーヒー専門店で開催されることもあるこの講座ですが、小さな会場でも開催しやすく、
自宅サロンでのカッピング講座など新しい切り口でコーヒーの素晴らしさを発信することが出来ます。

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カッピングの実践

それでは、いよいよカッピングを修得していきましょう。
品質管理におけるグレードの決定や、品評会で行われるカッピングのような、
細かい規定に忠実に行う必要はありません。

ただし、毎回異なるやり方では風味の比較ができないため、
いくつかの基準を設けてやり方を統一することがポイントです。

用意するもの

コーヒー豆

カッピングしたい豆をそれぞれ20gずつ用意します。
フレーバーが逃げないように豆の状態で用意し、カッピング直前に挽くのがお勧めです。

カッピングボウル

専用のカッピングボウルでなくても、グラスなどの器でもかまいません。
豆の均一性を確認するために同じものを2つ用意しましょう。
COE方式では同じ豆用にカップを4つ用意しますが、
これは何キロものロットにばらつきがないことを確認するためなので、
家庭で行うなら2つで充分です。

すすぎ用のカップ

使用したスプーンをすすぐために使用するので、水や湯を入れておきます。
スプーンは使用するたびにすすぐようにしましょう。

スプーン

コーヒー液を口に運ぶために用います。
専用のスプーンもありますが、スープスプーンなど先がまるいもので代用も可能です。

吐き出し用カップ

口に含んだコーヒーを吐き出すためのカップです。
カッピングする豆が少ない場合はそのまま飲んでもかまいませんが、
複数をカッピングする場合には満腹にならないように用意するとよいでしょう。
透明でないものを選びます。

カッピングフォームやカッピングノート

専用のフォームや用紙でもよいですし、自分で基準を決めたノートでもOKです。
ノートは様々な情報が書き加えられるのでお勧めです。

スケール

豆を計量するための量りです。
カッピングするためのサンプル豆は必ずスケールで重さを量るようにしましょう。
できれば0.1g単位で量れるデジタルタイプがあるとより正確性が増します。

タイマー

コーヒーの抽出時間をはかるために用います。

カッピングの手順

①粉状態のアロマを確認する

量った豆を中挽き〜中細挽きにして、10gずつカッピングボウルに入れ、
粉の状態で香り(アロマ)を確認します。
この時、アロマがわかりにくい場合にはカップを軽く叩く振るなどして香りを立たせます。
この香りは「ドライ」といわれます。

②カッピングボウルに湯を注ぎ、香りを確認する

カップに180mlの熱湯を注ぎ、注いだ直後の香りを確認します。これを「クラスト」といいます。
そのままコーヒーを抽出するために、4分待ちます。

③スプーンでかき混ぜ、アロマを確認する

4分経ったら、スプーンで3~4回かき混ぜ(ステア)、
鼻をカッピングボウルに近づけてアロマを確認します。
これを「ブレイク」といい、これにより粉の下に閉じ込められていた香りが立ち上がります。

この時、カップ表面に浮かんでいる粉を崩すように混ぜること、
全カップでかき混ぜる回数を統一することがポイントです。

mavo/Shutterstock.com
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④カップの表面のアクや粉のカスをすくい取る

粉が沈んだら、カップの表面に浮いた泡やアク、粉のカスをすくい取ります。
2本のスプーンを使い、泡などを手前に引き寄せるようにすると手早く取り除けます。

mavo/Shutterstock.com
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⑤勢い良くすする

スプーンでコーヒー液をすくったら、勢い良くすすります。
「ズズーッ」と音を立てて口の中に霧が広がることを意識します。
最初はうまくできないかもしれませんが、繰り返すうちにコツが掴めてきます。
香りが喉の奥から鼻に抜けるようなイメージを持ちましょう。

⑥評価やイメージを記録する

カッピングしたら、必ず評価やイメージを記録しておくようにしましょう。
カッピングフォームでも良いですし、カッピングノートを自分で作るのもお勧めです。
なんとなく味見をするのではなく、点数をつけたり言葉で表現することで、
自分の中の感覚が磨かれてゆきます。

カッピングの評価ポイント

カッピングの評価にはSCAA方式(現 SCA方式)とCOE方式などがあることは既に学習しました。
本講座では、世界基準でもあり日本でも採用されているCOE方式での評価を学習していきます。

COEのカッピングフォームの見方

世界的品評会であるCOEではもちろん英語のカッピングフォームが用いられていますが、
それぞれ意味を理解すれば難しい英語はないので、心配しなくても大丈夫です。

COEカッピングフォームの一例

項目は左から下記のようになります。

  • SAMPLE(サンプルナンバー)
  • ROAST(ローストカラー)
  • AROMA(アロマ)
  • DEFECT(ディフェクト/欠点)
  • 8項目の評価(カップのきれいさ、甘さ、フレーバーなど)

点数は5項目目の「8項目の評価」によって点数化されます。
0-8点(実質3-8点)の点数評価が中心となり、8点満点×8項目=64点満点に、
素点36点(「SAMPLE」から「DEFECT」までのなかで欠点があればここから点数が引かれます)を
プラスした100点満点で、COE品評会のコーヒーは評価されています。

8つの項目を手がかりにコーヒーの風味を探求する

8つの項目
<①Clean cup、②Sweetness、③Acidity、④Mouthfeel、⑤Flavor、⑥Aftertaste、⑦Balance、⑧Overall>
についてそれぞれ見ていきましょう。

それぞれはカッピングフォームでは点数をつけて評価されますが、
感じたことなどはそれぞれの項目のすぐ下にあるメモ欄に記載していけるようになっています。

①Clean cup:カップのきれいさ

スペシャルティコーヒーで重要な生産される土地(テロワール)を感じるためには、
コーヒーの透明感が欠かせません。
雑味や欠点味がなく、きれいな味わいかどうかを評価します。
コーヒーの品質を評価するための最も基本的な出発点とされています。

+(プラス評価となる要素) ・・・測定できる欠点が見当たらないこと
-(マイナス評価となる要素) ・・・汚れた印象、土のような印象、カビの香り、フルーティでない・・・など

②Sweetness:甘さ

「甘さ」は豆がよい環境で育ったか、収穫時にどれだけ均一に熟していたか、
適切な生産処理を施されたかということと密接に関連しています。
コーヒーの甘さは、コーヒーにどれだけ糖分が含まれているかや、
甘さが作り出す印象(フルーツやチョコのイメージ)に依存せず、
甘さが口のなかでどのように広がりを見せるかなども評価対象となります。

+(プラス評価) ・・・コーヒーの質の良さが広がる甘さが展開すること
–(マイナス評価) ・・・豆の未熟さ、広がりがない、すっぱい・・・など

③Acidity:酸味の質

酸味はコーヒーの魅力の軸となる要素の一つとして、非常に重視されます。
「明るいさわやかさ」や「繊細な酸味」といったものがどれほどあるかなど、
酸味の強さではなく、酸の「質」を評価します。

重要なのは酸味の強さや弱さではなくそれがどのように表現されるかであり、
「不快であるか」「鋭い印象か?」「洗練されているか?」「刺激的か?」「爽やかか?」
などの質問を、正しく判定することを意識して評価を行います。

+(プラス評価) ・・・生き生きしている、洗練されている、引き締まっている、軸がある、爽やか、独特の風味がある・・・など
–(マイナス評価)・・・鋭い、硬い、薄い、無味乾燥、すっぱい、締まりが無い、刺激的である・・・など

④Mouthfeel:口に含んだ質感

マウスフィールとは、コーヒーを口に含んだときの触感です。
粘度、密度、重さ、きめ細かさ、収斂性、オイル感などをみます。
酸味と同様に、質感の「強さ」は「質」とは関係ないので、評価対象にはしません。
あくまで評価は質感の「質」を判定します。

+(プラス評価)・・・バターのよう、クリーミィ、丸い、スムーズ、豊か、ベルベットのような、しっかり織られた編み物のような・・・など
–(マイナス評価)・・・収斂性、荒い、水っぽい、薄い、軽い、ざらつき・・・など

⑤Flavor:フレーバー

フレーバーとは、味と香り、味覚と嗅覚の組み合わせです。
フレーバーはコーヒーが生産された土地(テロワール)によるもので、
このフレーバーがコーヒーをコーヒーとして存在させている大きな要素の一つであり、
上品で、時に力強く感じることもあります。

「花のような」「ベリーを思わせる」など、植物や食べ物に例えられる事が多く、
フレーバープロファイルの表現が用いられるのが一般的です。
複雑なフレーバーを感じるものほど高い評価となる傾向にあります。
ただし、このフレーバーは、突発的な変異ではなく、
テロワールや農園の収穫や生産処理の能力によってもたらされた適切なものであるのか、
といった区別も必要となります

+(プラス評価)・・・強くほかと区別される個性、心地よさ、シンプルや複雑な深さ。(ナッツ、チョコレート、ベリー、シトラス、フルーツ、キャラメル、フローラル、たくましさ、スパイシー、蜂蜜、スモーキー、というような書き方が可能)
-(マイナス評価)・・・ジャガイモ、味気ない、草、枯れ、苦味、塩味、すっぱさ、腐ったよう、麻袋、野菜・・・など

⑥Aftertaste:後味の印象

アフターテイスト(後味)とは、コーヒーを飲み込んだ後に残っている風味です。
これは、コーヒーの甘さやフレーバー、質感など
他の印象から得られた喜びを補強することもありますし、
容易にコーヒー全体の印象を崩すものでもあります。
「甘さの感覚で消えていくか?」「刺激的な風味が残るか?」「不快な要素があらわれるか?」などを判定します。

+(プラス評価)・・・甘く、クリーンで、善い印象で長く続く
–(マイナス評価)・・・苦く、収斂性があり、あまったるい、汚れている、不快、金属臭・・・など

⑦Balance:バランス(均衡性・ハーモニー)

風味の中で何かが突出していたり、反対に欠けているなど、コーヒー全体のバランスを評価します。
全体としてのバランスがよく、心地良いハーモニーや均衡性が感じられるものは高評価となり、
「コーヒーは全体として調和がとれているか?」「 何かが過度ではないか?」「 何か欠けていないか?」などを判定します。

+(プラス評価)・・・均衡して、安定している(熱いときから冷めるまで)、酸味やボディが構造的・・・など
–(マイナス評価)・・・何かが欠けている、何かが過度、キャラクターと調和しない変化がある・・・など

⑧Overall:総合評価

風味に豊かな立体感やおもしろい複雑さがあるか、
シンプルでも全体として心地よいまとまりがあるかなど、コーヒー全体のイメージを評価します。

この項目はカッピングを行う人(カッパー)の主観的評価となり、
個人的な好みを反映してもよい項目となります。

+(プラス評価)・・・複雑性、広がりがある、一貫している、豊か(熱いときから冷めるまでの変化)
–(マイナス評価)・・・単純、退屈、好きじゃない!・・・など