フレーバーを捉える
カッピングの上達のためには、実践を重ねることが欠かせません。
その上で、上達のためにぜひとも注目したいのは「フレーバー」です。
フレーバーとはカッピングの評価項目の一つであり、
口に含んだ時に広がる味と鼻腔から抜ける香りの総合的な印象を指します。
フレーバーは、コーヒーに限らず食べ物の印象を決定づける重要な要素となるものですが、
スペシャルティコーヒーには、特にこのフレーバーにテロワールなど特有の特徴があります。
コーヒーのフレーバーは繊細で、的確に捉えて表現するには経験が必要となります。
しかし的確に捉えられるようになれば、
フードペアリングやブレンドにも役立つなど活用度が高く、楽しみも広がります。

上達ポイント①段階的にフレーバーを捉える
フレーバーを的確に表現できるようになるための最初のポイントは、
フレーバーを段階的に捉えることです。
「このコーヒーのフレーバーイメージは?」と聞かれてもわかりにくいですが、
段階を踏むことで表現がぐっとしやすくなります。
例えば、浅煎りのコーヒーのフレーバーにはフルーツを思わせる風味を感じる傾向にあります。
そこから、柑橘(シトラス)系なのか、ベリー系なのか、トロピカルフルーツ系なのか、
どのようなフルーツなのかを深堀りしていきます。
柑橘系には、レモン、ライム、グレープフルーツ、オレンジなど、
トロピカルフルーツ系には、ライチ、マンゴー、パパイヤ、バナナなど様々な種類があり、
次の段階ではこれらのどれに当てはまるかを探っていきます。
↓
どんな系統のフルーツか?
・柑橘系?
・ベリー系?
・トロピカルフルーツ系?
↓
柑橘系の香りなら、どんな柑橘のフレーバーか?
・レモン?
・ライム?
・グレープフルーツ?
・オレンジ?
このように段階的に細分化しフレーバーを把握することで、
自分が感じたフレーバーを適切に捉え表現できるようになります。
まずは大きなくくりで捉えて、少しずつ詳細に表現する練習をしていきましょう。
浅煎りのフルーツフレーバーの他にも、花やスパイスなど様々なフレーバーや、
深煎りのコーヒーにはナッツやチョコレートを思わせる風味などがあります。
また、最初はナッツを感じたけれど後からオレンジのフレーバーが現れるなど、
複数のフレーバーを持つコーヒーもあります。
上達ポイント②日々の生活の中でもフレーバーを意識する
フレーバーには多彩な表現がありますが、そもそも元の食品の香りや味を知らなければ、
例えることも捉えることも表現することもできません。
そのため、普段から様々な食品を口にし、フレーバーを意識することが重要となります。
STEP1.食材の素材のフレーバーを感じる
まずは普段触れる食材のフレーバーを意識してみましょう。
生の果物や素材そのもののフレーバーは、繊細で最初は感じにくい場合もありますが、
素材のフレーバーを感じ取れるようになればコーヒーの天然の繊細なフレーバーを捉えやすくなります。
STEP2.加工品でフレーバーを感じる
ジャムやシロップなどの加工品は生の果物よりもフレーバーがわかりやすい傾向にあります。
特徴が出やすくなるように、香りを強めているためです。
加工品で特徴的な香りをつかんで、生の素材でもそのつかんだフレーバーを目印に
繊細なフレーバーを探っていきましょう。
また、乳製品と合わせることで香味を感じやすくなる場合もあるので、
ジャムなどをヨーグルトに混ぜてみてもよいでしょう。
STEP3.柔軟剤や化粧品などの人工香料を感じ取る
生の素材や加工食品でフレーバーがわかりにくい場合には、
柔軟剤や化粧品などの人工香料を試してみる方法もあります。
多くの人にわかりやすいよう、これらの製品は特定の香りを強調して作られているためです。
ただしあまり人工香料に慣れすぎると、繊細なフレーバーがわかりにくくなる場合もあるので
注意が必要です。
特徴的な香りを掴んだら、実際に生の素材からフレーバーを探すようにしましょう。
上達ポイント③フレーバーホイールを用いる
最初はフレーバーを表現する語彙が少なく、同じような表現になってしまいがちです。
そんなときに香味を表すのに役立つのが、コーヒーのフレーバーを
ビジュアルでわかりやすく示している「フレーバーホイール」です。
フレーバーホイール
フレーバーホイールとは、コーヒーのフレーバーをビジュアルでわかりやすく表しているもので、SCAA(アメリカスペシャルティコーヒー協会。現在のSCA)が公開しているものは、
正式名称「コーヒーテイスターズフレーバーホイール」といいます。
SCAA(現 SCA)以外にも様々なフレーバーホイールが作られているので、
比較して好みのものを参考にすると良いでしょう。
フレーバーホイールを用いることで、自分が感じた感覚を言語化しやすくなります。
カウンター・カルチャー・コーヒーのフレーバーホイール
はじめての方が用いるのにおすすめなのが、
カウンター・カルチャー・コーヒーのフレーバーホイールです。
カップ・オブ・エクセレンスの現場で使われるような、
様々なポジティブなフレーバーがきれいにカテゴリー分けされ、焙
煎度合い別に並べられているのが特徴で、カッピング初心者でも使いやすくなっています。
簡単な使い方
上記のポジティブ版フレーバーホイールは、内側(中心)から外側に向かうように
見ていくとわかりやすくなります。
例えば、フルーツのようなフレーバーを感じたら、赤紫の「FRUIT」のところからスタートし、
その上の「CITRUS」「GRAPE」「TROPICAL FRUIT」などのフルーツの系統を探します。
最後に一番外側のホイールを用いて、具体的に表現するならどのフルーツに当てはまるかを確認します。
上達ポイント①の段階的にフレーバーを捉える方法とよく似ていますが、
指標がある分ホイールを用いたほうがぐっとフレーバーを当てはめやすくなるため、
活用するとよいでしょう。
ディフェクト(欠点)版の使い方
カウンター・カルチャー・コーヒーのフレーバーホイルーには、
ディフェクト(欠点)を表現するものもあります。
ディフェクト版はポジティブ版とは逆に、外側(円周)から内側に向かって見ていくと良いでしょう。
例えば、「古い木の様なフレーバー」を感じた時には、そこから中心に向かってみていくと、
生豆がちょっと古くなってきていることが要因として考えられることがわかります。
このようにコーヒーに現れているフレーバーから、その原因を類推するのに役立ちます。
体系的な飲み比べを行う
上記のような3つのポイントを押さえたら、実際にカッピングや飲み比べを行ってみましょう。
上達にはたくさんの数を試し味わうことが大切ですが、
やみくもにただ数だけ多くしても残念ながらスキルアップには繋がりません。
ここで大切なのは、体系的に豆を分類して飲み比べることです。
まずは違いがわかりやすい①生産地エリアによる分類 ②精製処理による分類 ③品種による分類の
3つに体系化してカッピングしてみましょう。
①生産地エリアによる分類
コーヒー豆は、テロワールと言われるように産地によりおおよその傾向があります。
産地による違いは特徴的なので、それぞれ掴んでおきましょう。
(産地が同じでも標高の違いにより例外もあります)

中南米エリア
- 柑橘系の酸味を持つ
- カカオやチョコレート系の苦味がある
- 酸味と苦味のバランスがよい
アジアエリア
- スパイスを思わせる独特なフレーバーを持つ
- 酸味よりもコクや重みのある豊かさがある
東アフリカエリア
- 複雑な酸味を持つ物が多い
- 花の香りが印象的なものもある
②精製処理による分類

精製処理も、味やフレーバーの違いが明確に出るものの一つです。
特にカップの綺麗さが比べやすくなっています。
ナチュラル精製
- コクと甘さに特徴がある
- かすかな発酵臭があり、好き嫌いが分かれる
ウォッシュト精製
- 透明感が高くクリーンなカップとなる
- クリアな酸味が楽しめる
パルプドナチュラル精製
- ナチュラルとウォッシュトの中間の精製方法
- 程よいコクとほのかな酸味が特徴
③品種による分類
豆の品種によっても香味の傾向があります。

ブルボン種
- コクや酸味のバランスがよい
- 豊かな甘さも特徴
ゲイシャ種
- はっきりとした柑橘系の香りがある
- 花や香水を思わせるフレーバーも持つ
ティピカ種
- クリーミーな質感が特徴
- 質のよい酸味を伴う甘さがある
パカマラ種
- 花のような香りを持つ
- 重量感のあるボディが特徴
とにかく感じたことを表現してみよう!
カッピング上達やフレーバースキルをアップさせる上で、
とにかく感じたことを言葉に出して表現することはとても大切です。
一人で行うカッピング
一人でじっくり行うカッピングの場合には、
フレーバーノートやフォーマットに必ず書き留めるようにしましょう。
これにより拙いながらも、とにかく言葉にする癖がつきます。

複数人で行うカッピング

多くの人と一緒にカッピングを行うことで、
カッピングの目的である客観的な視点や評価の精度を上げることができるというメリットがあります。恥ずかしがらずに、自分が思ったことを言葉で表現して伝えること、人の表現を聞くことが大切です。
友人や知人などを集めて行うことが難しい場合には、カッピング教室に行ってみるのもよいでしょう。後々、自宅サロンや店舗で自分が開催する際の参考にもなります。
複数人で行うメリット
- イメージや感じたことを人に伝えることで、的確な表現なのか判断ができる
- 自分以外が感じた感覚を知ることができる
このほか、豆専門店でスタッフと親しくなって意見交換することも、
感じたフレーバーを言語化することに役立ちます。