精製
コーヒーチェリーから生豆のみを取り出し、乾燥させる作業を「精製」と言います。
コーヒーチェリーはフルーツであり、そのままでは腐りやすい状態です。
精製は、コーヒー豆が出荷され、私たちのもとに届くまでの保存性を高める意図があります。
また、コーヒーチェリーを精製すると重量が20%ほどまで軽くなり、輸送に適した形となります。
様々な精製方法
この過程のうち、外皮、果肉、ミシュレージまでを取り除く過程を「ウェットミル」、
パーチメントまでを取り除く作業を「ドライミル」と言います。
コーヒー豆の精製方法には大きく分けて「ウォッシュト(水洗式)」と
「ナチュラル(乾燥式、非水洗式)」の2つがありますが、
両方の過程を取り入れた「パルプトナチュラル」や「セミウォッシュト」という精製方法もあります。
「ウォッシュト」と「セミウォッシュト」は製法が近いので、
2つを区別するために「ウォッシュト」を「フーリーウォッシュト」と呼ぶ場合もあります。
また、インドネシアのスマトラ島のみで行われている
「スマトラ式」という特殊な精製方法も存在します。
コーヒーは精製方法によって味と香りに違いが出ますが、
これは特にどの段階で乾燥させるかが大きく関係していると考えられています。
以下の5つの精製方法と別表記も合わせて覚えておきましょう。
コーヒー豆を購入する際にも参考となります。
■ウォッシュト(水洗式、湿式、フーリーウォッシュト)
近代的で最も広く行われているのがこの方式です。
- まず収穫したコーヒーチェリーを大きな水槽に入れ、水に浮く未熟果実や完熟果実を取り出し、水に沈んでいる小石などの異物を除去します。
- 次に、コーヒーチェリーの果肉を「パルパー(pulper)」という機械で取り除き、水槽に10〜40時間ほど浸けて発酵させます。微生物の働きでミシュレージが分解され、ぬめりが取れてきたところで水洗いしてきれいにします。
- 後は天日干しか機械で乾燥させ、パーチメントを脱殻(だっかく)して生豆を取り出します。
ちなみにこの脱殻(だっかく)という言葉は脱穀(だっこく)と似ているので
間違えて覚えないように注意してください。
コーヒー関係の文献ではたまに脱穀の方を使って説明しているものがありますが、
コーヒーは穀物ではありませんので、殻を取り除く意味の「脱殻」を使う方が一般的です。


ウォッシュトのメリット
ウォッシュト精製の利点は異物などの混入が少なく、精製度が非常に高いところです。
また、ウォッシュトで精製されたコーヒー豆からは酸味が豊富で、
すっきりした味わいのコーヒーが出来ると言われています。
ウォッシュト精製は工程の大部分を水に浸す形で行うため、
コーヒー豆の色ツヤが良くなり、また発酵させる工程が入ることが、
コーヒー豆の風味に影響を与えていると考えられています。
ウォッシュト式のデメリット
この方式の欠点としては、水槽などの設備が必要であること、また工程が多く手間がかかること、
そして大量に廃水が出るという環境問題が挙げられます。
ウォッシュト精製はメキシコ、コロンビア、ホンジュラス、グアテマラ、ルワンダ、ハワイなどで
採用されています。
■ナチュラル(非水洗式、乾燥式、乾式)
コーヒー豆を精製する最も伝統的な方式です。
- コーヒーチェリーを一週間くらい天日干しにします。
- 乾燥して黒くなったところを脱殻して生豆を取り出します。
- 地域によっては機械で乾燥させるところもあります。
このように天日干しされ黒くなったコーヒーチェリーを脱殻して生豆を取り出します。

ナチュラル精製のメリット
この方式の利点はシンプルで手間がかからず、廃水なども出ないことです。
また、ナチュラル精製されたコーヒー豆からは甘味があり、
しっかりとしたボディのコーヒーが出来ると言われています。
これは果肉付きの状態で日光で干すことにより、味に深みとコクが出るからだと考えられています。
ナチュラル精製のデメリット
欠点は天日干しをするための広い土地が必要であること、
炎天下で毎日何度もコーヒーチェリーをひっくり返す作業が必要となり、
従事者にとっては大変な重労働になることなどがあげられます。
また、天日干しをする過程で異物の混入が多くなり、シルバースキンも残りやすい点などです。
ナチュラル精製はブラジルやエチオピアなど、伝統的なコーヒー生産国で主に採用されています。
■セミウォッシュト(半水洗式、エコウォッシュト)
ウォッシュト精製の発酵過程を省略し、
パルパーでミシュレージまでを取り除いてしまう精製方法です。
この精製方法だとウォッシュトのように廃水が出ないので、
「エコウォッシュト」と呼ばれることもあります。
コーヒー豆はウォッシュトに近い味になります。
■パルプトナチュラル(半水洗式、ハニー精法)
この方式はセミウォッシュト精製とほぼ同じですが、果肉をパルパーで取り除く際に、
ミシュレージを少し残すところが異なります。
ミシュレージ付きの段階のものを天日か機械で乾燥させて脱殻します。
コーヒー豆のパッケージではセミウォッシュトと同様
「半水洗式」と表記される場合があります。
パルプトナチュラルの特徴
パルプトナチュラルで精製されたコーヒー豆からは、
しっかりとした甘味が感じられるコーヒーが出来ます。
これは、乾燥する際に表面に残ったミシュレージの甘味がコーヒー豆に移るからだと言われています。
パルパーで果肉を除去する際に、ミシュレージを残す比率を変えることにより、
コーヒー豆に残る甘味を調整するところもあります。
コスタリカではミシュレージのことをミエル(ハチミツ)と呼ぶので、
半水洗式を「ハニープロセス」と呼び、これによって精製されたコーヒー豆は
「ハニーコーヒー」と呼ばれています。
■スマトラ式(Sumatra Processing)
スマトラ島のみで行われている特殊な精製方法です。
マンデリンの名前で知られるコーヒー豆がこの方式で精製されています。
- コーヒーチェリーの果肉をパルパーで取り除きます。
- ミシュレージが残った状態のものを天日か機械で乾燥させます。
- 完全に乾ききらない状態で脱殻し、水分を多く含んだ生豆を取り出します。
- 生豆の段階で再び天日干か乾燥機にかけて最終的に乾燥させます。
この方式の特徴的なところは、完全に乾ききらない状態で脱殻してしまうところです。
そうして水分を多く含んだ生豆を取り出し、生豆の段階で再び
天日干か乾燥機にかけて最終的に乾燥させます。
この方式で仕上がった生豆は独特の深緑色になります。
スマトラ式の特徴
この方法で精製された生豆からはマンデリン特有の苦味と香りのあるコーヒーができます。
最初の乾燥工程で生豆の水分の含有率をコントロールすることが、仕上がりを左右するポイントです。