コーヒーの世界が変化する、新しいムーブメント
ここ十数年において、コーヒーのあたらしいムーブメントが巻き起こっています。
その始まりとも言われているのが、このスペシャルティコーヒーです。
日本でも2000年になって次第に聞かれる様になりました。
スペシャルティコーヒーは世界のコーヒーの価値観を一新したとも言われています。
また、大量生産大量消費の時代から質と個性を求める時代へと、
コーヒー界に大きな変革をもたらしました。
今やコーヒーについて確かな知識を技術を修得する上で、欠かせない知識となっています。
Lesson7では、コーヒーの常識と新しいムーブメントをしっかり学習しましょう。
スペシャルティコーヒーの定義や評価基準を始め、サスティナブルコーヒー、
サードウエーブコーヒーなど、コーヒーの次世代を担う新しい潮流を把握して、
さらなる楽しみ方を広げることができます。

スペシャルティコーヒーとはなにか?
アメリカから始まった、新しいコーヒーの評価基準
「スペシャルティコーヒー」は、1980年台にアメリカから始まり世界に広がった、
新しいコーヒーの評価基準に基づいて評価されたコーヒーです。
一般的なコーヒーは、豆の質などの評価基準が生産者や生産国にあります。
その評価項目も生産地の標高やつぶの大きさなど、産地により違いがあり、
さらに実際の味を考慮・保証することはありません。
また、複数の農園から生産される豆を混ぜあわせて出荷される場合がほとんどであり、
たとえその中の農園がこだわりを持って高品質の豆を生産していたとしても、
その他の豆と混在していては消費者もその美味しさを味わうことができず、
また生産者も正当な対価を受け取ることができない状況でした。
こうした生産者側の規格ではなく、評価基準はあくまで消費者側にあるとした
新しい評価基準において、実際に味わった際のカップクオリティ(抽出したコーヒーの味や香りなどの品質)を基準としたのが、スペシャルティコーヒーの大きな特徴です。
トレーサビリティ
スペシャルティコーヒーの特徴は、規定する団体により微妙な違いがありますが、
カップクオリティとトレーサビリティを重視する点は、どこの規格でも共通しています。
トレーサビリティとは
スペシャルティコーヒーの評価においても重要となるトレーサビリティとは、
「追跡可能性」とも訳されるもので、生産から消費までの経路を追跡できる状態を指します。
コーヒーの場合には、栽培される農園から収穫、精製、焙煎、輸送、
販売から消費者の手元に届くまでの経路を追跡できる状態です。
農園の栽培環境や栽培状況、肥料、農薬の種類や使用状況についての開示がなされているものであり、
生産・流通などの履歴を遡ることができることで、
その品種固有のフレーバーや土地の味というものを評価基準とすることができます。
この栽培方法が明確に開示されていることにより、サスティナブルコーヒーなど
様々な認証コーヒーの登場に繋がっています。(詳しくはLesson7-5で学習します。)
グレード評価にも影響を与える
スペシャルティコーヒーの広がりとともに、近年「トレーサビリティ」の概念が
大切とされる風潮が高まっており、農園まで詳しく表記された透明性の高いものほど
「トレーサビリティが高い」という高い評価がなされています。
スペシャルティコーヒーにおいては
トレーサビリティの明瞭性はグレードの高いコーヒーの基準となり、
そのようなコーヒーのグレードのピラミッドの頂点に位置づけられます。
スペシャルティコーヒーの立役者
スペシャルティコーヒーは、1980年代のアメリカに端を発します。
それは、アメリカのコーヒーの質が著しく低かったことへの反動でした。
アルフレッド・ピート
アルフレッド・ピートは、上質なコーヒーを焙煎、販売しながら、
コーヒーについての知識を広めた人物でもあります。
世界一金持ちの国が飲むお粗末なコーヒー
焙煎業を行っていたヘンリー・ピートの息子であったアルフレッドが
コーヒーの仕事に携わり始めた当時は、アメリカでのコーヒーの質は大変に低いものでした。
アルフレッドが当時働いていたE・A・ジョンスン社は、大手焙煎業者と取引のある
コーヒー輸入業者でしたが、アルフレッドは自分が取り扱う商品にぞっとするほどだったのです。
ピーツ・コーヒー&ティー
この仕事に付く前、ジャワやスマトラでコクのあるアラビカ豆の虜となっていたアルフレッドは、
45歳に解雇されると、自分でちゃんとしたコーヒーを焙煎して販売することを決意します。
そして1966年4月、バークレー市に「ピーツ・コーヒー&ティー」をオープン、
そこでアルフレッドは、当時アメリカの人々が飲んでいたものよりずっと深煎りさせて
2倍も濃く淹れたコーヒーを提供し始めました。
ピーツ・コーヒー&ティーでは、ただコーヒーや豆を売るだけでなく、
アルフレッドによる熱心な講義も行われたこともそれまでのコーヒーショップとは異なる点でした。
従業員にはカップする(香り、味わい評価する)ことを教育していきます。
「ピーツ・コーヒー&ティー」は先進的でイカすお店として当時のヒッピーたちの間で人気となり、
お店に通う多くの人々が、焙煎機からコーヒーが流れ出す瞬間の香りを堪能するためにあつまり、
魅了されていったといいます。
上質なコーヒーの再発見が各地で起こる時代へ
同時期、アメリカにおいて独自に焙煎したての上質なコーヒーを売る伝統を再発見、
維新する人々が点在する時代となっていきます。
- ニューヨークのソール・セイバー
- フロリダのピーター・コンダクシス
- ニューヨークのドナルド・シャーンホルト
- ドナルドの友人のジョウエル・シャピラ・・・など
彼らはそれぞれ小さい店での独自の方向性を持っており、
消費者に上質なコーヒーの魅力を伝える立役者となっていきます。
スターバックスの誕生とアルフレッドとの関係
世界トップクラスに有名となったスターバックスコーヒー。
スターバックスの創設者は、ジェリー・ボールドウィン , ゴードン・バウカー, ゼヴ・シーグルの
3人の男性ですが、実はスターバックス誕生の物語は、
アルフレッド・ピートが4人目の立役者として存在していました。
当時サンフランシスコで学生生活を送っていたジェリー・ボールドウィン は、
ある人物から貰ったピートのコーヒー豆に感動し、ピートの店の存在を知ることとなります。
彼はピートの店のことを友人であったゴードン・バウカーにも教え、
その後2人がシアトルに引っ越した後も、通信販売でピートの豆を取り寄せてまで、
そのコーヒーを飲み続けるようになりました。
シアトルでコーヒーショップを開く事を思いついたゴードンは、ボールドウィンに相談し、
サンフランシスコ大学同窓生のゼヴ・シーグルにも声をかけ
3人でこの計画を遂行することとなります。
その際、コーヒーの専門知識を学んだのは、アルフレッド・ピートのお店だったのです。
その後3人が新しい店を開いた際、当初はピートからコーヒーの生豆を仕入れたり、
焙煎機等の器材の業者の探し方を教えてもらったりしていました。
その店構えもピートの店を手本にして作られていたほどです。
アルフレッド・ピートのコーヒーと彼らの出会いがなかったら、
現在では知らない人がいないほど有名となった今のスターバックス誕生はなかったかもしれません。
アーナ・クヌートセン
コーヒーに恋したスペシャルティコーヒーの提唱者
スペシャルティコーヒーの立役者として最も有名なのは、
スペシャルティコーヒーの提唱者であるアーナ・クヌートセンでしょう。
彼女は世界の「特定の地域で採れた豆の特性を識別する」という新しい基準を構築、
コーヒーを原点において再発見したとも言える人物です。
彼女は元々コーヒー輸入業者の秘書として働いていました。
コーヒーと香辛料の輸入会社B・C・アイランドで働いていた当時、
上司の勧めにより、少量の高品質のコーヒー豆を小さな焙煎会社に売るという商売を
ささやかな規模ですがスタートさせます。
困難を乗り越えて修得したカッピングの技術
次第にコーヒーに対する味覚を磨きたいと思うようになった彼女でしたが、
コーヒーの味を確かめたり鑑定したりするカッピングの世界は、
当時男性社会で女人禁制のような状態でした。
多くの人から非難されながらもカッピングの世界に足を踏み入れたクヌートセンでしたが、
女性というだけで彼女への風当たりは強く、受けた非難や困難は計り知れないものでした。
しかし様々な壁を乗り越え、カッピングの技術を修得、
繊細で奥深いコーヒーの世界に魅了されていきます。
そして、ありったけの情熱を傾けた彼女のコーヒー鑑定は焙煎業者たちを魅了し、
高級豆の第一人者として知れ渡るようになるのです。
「スペシャルティコーヒー」の提唱
当時のアメリカの生豆輸入業者たちは、低級なコーヒーを少しでも安く買おうと競い合っていました。このことがアメリカのコーヒーの質を下げる大きな要因でありましたが、
クヌートセンはそのような輸入業者とは全く別の方法をとります。
それまで欧州と日本にしか輸入されていなかった最高級の豆を
誰もが驚くような高額な値段を支払って仕入れたのです。
そして、それを彼女の顧客は喜んで購入、コーヒー本来の美味しさを楽しみました。
1974年、「紅茶とコーヒーの業界紙」のインタビューでクヌートセンは、
「高品質(スペシャルティ)コーヒー」という新造語で自身の売っている豆を呼びました。
これが初期グルメコーヒーブームの看板のようになり、
「高品質のコーヒーを楽しむ」という概念が広く知れ渡るようになります。
彼女がこの言葉を提唱した当時は、まだ「高品質(スペシャルティ)」に明確な基準がなく、
“特別な希少や地理的条件が生み出す、ユニークな風味を持つコーヒー”に対する呼称でした。
彼女は高品質コーヒーの輝かしい未来をこう予言しています。
当時の彼女の予言どおり、スペシャルティコーヒーのムーブメントは世界中に広がり、
コーヒー通たちを魅了していくこととなります。